
ディープラーニングは、従来の機械学習よりも優れた効果を発揮するということで、多くの研究者に採用されている人工知能(AI)学習の方法です。具体的に、これまでの機械学習とはどのような違いがあり、どういった点で優位性を発揮しているのでしょうか?
今回は、そんなディープラーニングのメリットや、実際の活用事例について紹介します。
ディープラーニングとは
ディープラーニングは、日本語で「深層学習」とも呼ばれる人工知能技術で、高度な計算が行えるということで近年注目を集めています。膨大なデータをインプットすることでデータを細部まで読み込み、人間では判断ができないレベルの問題解決にも応用できるため、時として人智を超えた活躍を見せることもあります。
その汎用性は高く、金融機関やインフラ、司法の現場やエンターテイメントに至るまで、さまざまな領域での活躍が期待されています。
機械学習との違い
ディープラーニングとよく比較されているのが「機械学習」です。結論からお伝えすると、機械学習とディープラーニングは別個の存在というわけではなく、機械学習の技術を発展させて誕生したのがディープラーニングです。従来の機械学習との決定的な違いとしては、ディープラーニングは特徴量を自発的に発見できるという点が挙げられます。
従来の機械学習の場合、主流だったアプローチが「教師あり学習」と呼ばれるものです。これは人間があらかじめデータの良し悪しや違いの判断基準となる特徴量を、データとともにコンピューターへインプットし、それをもとにタスクをこなすというものでした。
一方のディープラーニングは、特徴量を自発的に発見し、データの違いを自ら理解できる仕組みを有しています。いわゆる「教師なし学習」と呼ばれる手法で、人工知能はディープラーニングによって高度な判断基準を獲得し、答えが未知数の問題に対して独自の見解を示せます。
ディープラーニングの仕組み
ここで、ディープラーニングがどのような仕組みで人工知能の強化に役立っているのか確認してみましょう。
ニューラルネットワークが活躍する
ディープラーニングの基礎となっている技術が、ニューラルネットワークです。これは人間の神経系(ニューロン)に着想を得て生まれたネットワーク構造で、「入力層」「隠れ層」「出力層」という3層構造をベースにしています。インプットした情報はこの3層構造内の伝達の中で解釈され、各データに重みづけを行うことで、特徴量の抽出を行います。
ディープラーニングは2000年代に誕生した技術ですが、2010年代に突入するまでは重要視されてこなかった技術です。というのも、当時は情報処理がシンプルなタスクに限定されており、今ほどの汎用性を発揮することができなかったためです。
現在、ディープラーニングが活躍している現場においては、隠れ層の部分を多層化することによって、複雑な情報処理が行えるよう設計されています。GPUの進化や数々の試行錯誤によって、ここ数年でディープラーニングは身近な技術へと進化してきました。
多彩な学習方法を利用可能
ディープラーニングは一括りで紹介されることも多い技術ですが、実はその学習アプローチにも種類があります。
ディープラーニングの手法が多様化し、それぞれが併用されている理由は、用途に応じた使い分けの必要性があるためです。ディープラーニングという技術の汎用性の高さは、用途によって異なる手法を選べる選択肢の豊富さによって支えられているともいえます。
例えば、ディープラーニングが活躍することも多い画像認識分野においては、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)という手法が最適とされています。画像から特徴量を抽出するのに最適なアルゴリズムであるため、多くの研究者が好んでこの方法を選んでいます。
集客予測や天気予報など、時系列に基づく情報の分析には、再帰型ニューラルネットワーク(RNN)と呼ばれる手法が使われます。CNNなど、他の手法では失われてしまいやすい時間の概念も、RNNを利用することで失うことはなくなり、過去と現在、そして未来にフォーカスした分析が行えます。
ディープラーニングには他にもいくつかの種類があり、さまざまな手法を使い分けたり、併用したりして高度な人工知能開発に応用されています。
ディープラーニングのメリット
ディープラーニングから得られるメリットは、業界によってさまざまです。ここでは、主な2点について紹介します。
素早く多くの情報を処理できる
一つ目のメリットは、ディープラーニングによって効率的な情報処理が実現する点です。機械学習の場合でも、従来のコンピューティングに比べると遥かに優れたデータ処理が行えていたものの、ディープラーニングのポテンシャルはそれを上回ります。
もちろん、どれだけのパフォーマンスを発揮できるかはハードウェアの性能にも依存しますが、ディープラーニングの仕組みを利用することで膨大なデータを処理し、学習効率を最大限まで高めることができます。
ビッグデータ活用でディープラーニングに注目が集まっているのは、このようなポテンシャルに期待してのことという理由があります。
高い精度が期待できる
ディープラーニングは高速処理の能力もさることながら、高い精度でのアウトプットが可能な点も注目されています。画像認識技術や自然言語処理など、高度なAIが必要な場面というのは、複雑なタスクにも間違いなく回答できる精度の高さが求められます。
ディープラーニングはそんな需要に応えることのできる技術ですが、鍵となるのがやはり特徴量検出の能力です。通常の機械学習では自発的に得られない特徴量をディープラーニングは自ら検出できるため、人間では気づかないレベルのデータの違いを把握することが可能です。
ディープラーニングの課題
多くの期待が寄せられるディープラーニングですが、一方で対処すべき課題も存在します。ディープラーニングの弱点を理解し、運用効率を高めましょう。
膨大なデータを必要とする
一つ目の課題が、インプット用のデータを集めるのに手間がかかるという点です。ディープラーニングは膨大なデータを処理できるわけですが、そもそもデータがなければ学習を行うことはできません。
そして、ディープラーニングが学習のために必要とするデータ量は極めて多く、パフォーマンスを高めるためには常に膨大なデータを確保しておく必要があります。そのため、自社にデータベースがない場合は他社から購入したり、データを集められる体制を整えたりしなければならず、そのためのコストが発生します。
ディープラーニング環境を整備する必要がある
ディープラーニングは優れた学習効果を発揮しますが、そのためには相応のスペックのハードウェアを用意する必要があります。通常のPCではせっかくのハイテクを持て余してしまうため、ハイエンドなPCの導入や、GPUサーバーの導入を進め、環境をアップグレードしましょう。
長期的な運用が必要となる
ディープラーニングは、実践的なAIを構築するために役に立つ技術ですが、そのためにはある程度の期間を要します。通常の機械学習よりも効率的な手法ではあるものの、それでも結果を出すためにはそれなりの時間がかかります。
短期的にAIを活用したい場合、自社で構築するよりも他社のサービスを利用した方が早いこともあるため、実装までの期間を考慮する必要があります。
ディープラーニングが活躍する分野
では、ディープラーニングは実際にどのような分野で活躍しているのでしょうか?ここでは活躍の場の一例を紹介します。
セキュリティ対策
セキュリティ対策は、ディープラーニングが活躍している分野の一つです。不正なログインを自動で検知したり、音声から詐欺であることを見抜いたりなど、幅広い活躍が見られます。
ディープラーニングを使えば、高い精度で物事の正誤判定を行えます。指紋認証や顔認証、声紋認証など、従来のコンピューターでは精度の維持が難しかった技術も、ディープラーニングで解決できます。
自動運転技術
自動運転技術は、ディープラーニングの活用方法としてポピュラーな分野の一つです。
自動運転にはリアルタイムで映像を分析する技術や自動車をコントロールする技術など、非常に高度な制御能力が複雑に組み合わさっているため、実現が難しいとされてきました。しかし、ディープラーニングの登場によって、これらの制御能力は格段に向上しています。今後数年以内に、一般の車道で見かける機会も増えてくるでしょう。
株式予測
株式や為替の予測においても、ディープラーニングは深くコミットしています。
元々こういった金融商品の動向を分析することは、過去のデータから未来のデータを予測する計算業務であるため、コンピューター向けの仕事でもありました。ディープラーニングによって、さまざまな分析アルゴリズムを複合的に活用できるようになったことで、人間の主観を排除した確実性の高い予測が行えるようになっています。
ディープラーニングの活用事例
最後に、ディープラーニングの具体的な活用事例を確認していきましょう。
Zホールディングス株式会社(Yahoo! JAPAN)
Yahoo! JAPANを運営するZホールディングス株式会社は、ニュースサイトに設けられているコメント欄における不適切な発言を、ディープラーニングによって規制する取り組みに力を入れています。
これまでは、ユーザーの不快・不適切な発言を人力で特定し、削除や自粛の呼びかけを行なっていました。しかし、現在はAIの力でこれらの発言を特定し、削除を行ったり、書き込もうとしているユーザーに注意喚起を行ったりするなど、コメント欄の健全化に努めています。
運用実績を重ねたこちらのシステムは、現在別のサービスへの提供も開始するなど、着実にシェアを伸ばしつつあります。
参考:AMP「ヤフー、不適切なコメント対策の自然言語処理AIを「NewsPicks」などに無償で提供開始」
株式会社LIXIL
住宅設備を販売するグローバルメーカーの株式会社LIXILでは、AIの導入によってユーザーのキッチンでの行動を観察したり、コールセンターの回答品質の安定化、工場での生産能力の改善に努めたりしてきました。
従来のユーザー行動の観察は手動で行ってきただけでなく、一つひとつの書き起こしを行なってきたこともあり、結果の出力に3ヶ月もの日数を要してきました。しかし、ディープラーニングの活用によって、これらの作業も自動化に成功し、わずか3日までに短縮することに成功しています。
削減に成功した時間と人手を考えると、このアップデートは驚異的な結果であるともいえ、企業の効率化に大きく貢献しました。
参考:ビジネスインサイダー「パルコやダイキンの「AI導入」最前線、支援するのはAIベンチャーABEJA:SIX2018」
株式会社レオパレス21
賃貸不動産でお馴染みの株式会社レオパレス21は、ディープラーニングを使って適切な家賃を算出する、画期的なシステムを導入しています。
家賃の決定は、間取りや築年数、立地条件といった要素が複雑に絡み合うため、正確な数値を算出するのが人力では難しい分野です。数字一つで集客に大きく影響する分野ですが、同社ではディープラーニングを導入し、アパートの賃料査定をAIで自動化しています。
結果、賃料の査定のために要していた人出や時間を大幅に削減できただけでなく、市場価値にふさわしい賃料をフラットに算出できるようになり、業務効率化と集客の改善に貢献しています。
参考:ITメディアエンタープライズ「「妥当な家賃」を自動で算出 レオパレス21がディープラーニングを導入した理由」
株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ
3大メガバンクの一つに数えられる株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループは、AIベンチャーのアルパカ・ジャパンとの協業により、相場を画像認識によって分析し、AIで為替の相場予測を行うシステムを開発しました。将来的には株や債権の値動きも画像認識によって予測できるシステムも開発予定ということで、今後の機能の拡充にも注目したいサービスです。
参考:coindesk Japan「メガバンク、商社を射止めたアルパカの為替予測──次はアジア、米国の金融機関を狙う」
キユーピー株式会社
食品メーカー大手のキユーピー株式会社は、1日100万個以上流れるダイス型のポテトを、ディープラーニングによって自動で検査できるシステムを導入しています。
食品を扱う企業にとって、商品の検品は重要な意味を持ちます。万が一の異物混入によって、企業の価値は大きく低下し、顧客の信頼を取り戻すのにも多くの時間を必要とするため、ミスの許されない現場だからです。
同社ではそんな重要な役割を、人間ではなくAIによって実施する時代へとシフトしています。人海戦術では限界のある現場も、AI導入によって大幅な効率化と、精度向上に成功しました。
参考:ITmediaエンタープライズ「キユーピーがAI導入、1日100万個以上のポテトをさばく「ディープラーニング」の威力」
まとめ
ディープラーニングの運用可能性や、具体的な仕組みやメリットについて紹介してきました。国内外を問わず、すでに多くの運用実績が登場しており、今後もさまざまな活用方法が各社から登場することが予想されます。
既存の導入事例を参考にしながら、自社での活用方法について、検討を進めておくと良いでしょう。