
AI開発の最先端をいくディープラーニングは、AIの歴史を変えるほどの大きな影響をもたらしてきました。ただ、研究者の間では盛んに採用されているディープラーニングとはいっても、AIに詳しくない人からすれば、これまでの技術との違いはわかりづらいものです。
今回は、ディープラーニングがどのような点で優れた技術なのか、そしてディープラーニングによって、どんなことが可能になったのかについて、実際の事例を参考にしながら解説します。
ディープラーニングとは
ディープラーニングは、日本だと「深層学習」という訳でも知られている、AI開発の新しい手法です。ディープラーニングを採用した学習モデルにデータを読み込ませることで、人間が手をかさなくとも、コンピュータがあらかじめ与えられた目的に合わせてデータを分析し、自ら解決策を提示してくれるという機能を備えています。
ディープラーニングの仕組み
ディープラーニングを実現する上で欠かせないのが、「ニューラルネットワーク」と呼ばれるアルゴリズムです。
ニューラルネットワークは、人間の神経細胞から着想を得た多層構造のネットワークで、複数に重なった層の間でデータを読み込むことで、データから独自に特徴量を抽出します。特徴量はAIがあらかじめ与えられたタスクに対して答えを導く上での手がかりのようなもので、ディープラーニングはニューラルネットワークのおかげで、特徴量を自発的に発見できます。
正確な答えを導くためには大量の学習データが必要ですが、データさえあればディープラーニングは自発的に特徴量を発見できます。結果、人間では気づかないようなデータ間の違いも踏まえた上で、高度な意思決定を下せます。
従来の機械学習との違い
ディープラーニングは機械学習手法の一種として知られている技術ですが、従来の機械学習手法とは大きくそのアプローチに違いがあります。
従来採用されてきた機械学習手法は「教師あり学習」と呼ばれ、あらかじめ人間が学習データへ「どんなところを理解すべきか」の指南を施した上で、AIにデータを読み込ませていました。
そのため、教師あり学習では、AIは人間が与えるヒントを頼りに効率的に学習を進められるため、学習スピードが速く、データの母数が少なくともある程度の精度を早期の段階から実現できていました。ただ、教師あり学習は、あくまで人間の価値判断に依存する学習手法であるため、AIが人間以上の判断能力を得ることはできないという欠点もあります。
一方のディープラーニングが可能にしたのは、「教師なし学習」と呼ばれる手法です。先ほども紹介したように、人間がAIに「これがヒントです」ということを指示しなくとも、データから自発的に判断基準を取得できる学習手法で、AIの可能性を大いに広げることとなりました。
人間の判断基準に頼る必要がないだけでなく、人間では気づかない差分にも目を向け、AI活用の可能性を飛躍的に高められるようになったためです。
ディープラーニングが注目される理由
そんなディープラーニング手法ですが、その原理は2000年代から提唱されていたものの、実用化が進んだのは2010年代からです。2020年代に入った今では、ますます運用が加速していますが、ディープラーニングが今になって脚光を浴びているのには、次の理由が挙げられます。
ハードウェアが進化したから
まず、AIを運用するためのハードウェアの性能がこの10年ほどで飛躍的に進化したことが挙げられます。ディープラーニングは高度な意思決定ができる技術ですが、運用に際しては強力なマシンパワーが必要なため、容易に扱えるものではありませんでした。
しかし、2010年代に入り、コンピュータの基本的な性能が格段に向上しただけでなく、CPUではなくGPUを学習に転用する手法が確立されたことで、ディープラーニングの導入事例は瞬く間に世界へ広がっていきました。
今ではGPUの性能も当時とは比較にならないほど向上しており、AIに最適化されたGPUも登場するなど、ディープラーニングに適した環境が整いつつあります。
AI活用の事例が増えているから
マシンスペックの向上に伴い、ディープラーニングを活かした活用事例も次々に登場しています。具体的な事例は後ほど紹介しますが、高度な技術でありながらディープラーニングは今や、私たちの日常生活においても当たり前のように用いられており、いずれは生活に不可欠な技術となっていくと想像できます。
ディープラーニングで実現する主な技術
ディープラーニングが実用化したことで、これまでどのような技術が確立されてきたのでしょうか?具体的な例としては、次のような技術が挙げられます。
高度な画像認識・生成
わかりやすい技術としては、画像認識や画像生成の技術が飛躍的に進化した点が挙げられます。人の顔の違いを、普通の人間ではわからないほど詳細に区別をつけ、なおかつ瞬時に見分けられたり、まるで人間の画家が描いたような繊細な絵を瞬時に生成したりと、さまざまな活用事例が登場しています。
特に後者の画像生成については、従来の機械学習手法では難しいとされてきた技術であるため、今後ディープラーニングが普及すれば、関連サービスがますます増えていくと予想されます。
正確な音声認識
音声認識技術も、ディープラーニングの実装で飛躍的な進化を遂げました。人の声とそうでないものを丁寧に区別したり、複数の人が話していても、誰が何を話しているのかを区別したりできます。
今後ディープラーニングの更なる導入が進めば、声のトーンや抑揚から話しての感情を読み取ったり、その人の異常を検知したりといった、より高度な音声認識技術が確立されていくでしょう。
自然言語処理
上述の音声認識技術と少し内容が似ていますが、自然言語処理能力が飛躍的に向上したのもディープラーニングのおかげです。
従来の言語処理は、あくまで辞書と辞書を突き合わせるような機械的な翻訳や、文章の読解が限界とされてきました。しかし、ディープラーニングの登場により、AIは人間のように行間や文脈を読むことができるようになり、流暢な翻訳を実現したり、人間が書いたような文章を生成したりできます。
今最も自然言語処理が進んでいるのが話者の多い英語ですが、今後は日本語や中国語、スペイン語などの各言語にも完璧に対応するようになるでしょう。
企業におけるディープラーニングの活用事例
続いて、実際にディープラーニングがビジネスの現場でどのような活躍を見せているのか、国内の事例を紹介しましょう。
明治安田生命保険相互会社
明治安田生命保険相互会社では、AI音声対話エンジンの「BEDORE Voice Conversation」を現場に導入し、請求受付業務の自動化を実現しています。
請求受付業務は日々発生するカスタマーサポート業務で、問い合わせ担当者を相当数配置しなければ処理することができない状況に発展しやすい問題を抱えています。そこで明治安田生命保険相互会社が注目したのが、電話受付対応のAI化です。
同社ではすでに顧客が自由に利用できるFAQシステムやチャットボットを導入していたものの、電話に慣れている人にとっては電話対応が最も便利な手段でした。そこで、同社では電話対応そのものをAIに任せられる仕組みを実装し、電話対応業務の大半を自動化することで、スピーディーかつ正確に処理できる仕組みを実現し、現場負担を大幅に削減できる体制を整備しました。
この際に導入されたAIシステムが、ディープラーニングを採用した音声認識機能を備えた専用のエンジンです。名義変更や請求書送付といった問合せにAIが応答し、人間のオペレーター同様に音声だけで手続きを終えることができます。
Zホールディングス株式会社
Yahoo! Japanの運営などを手掛けるZホールディングス株式会社では、運営しているニュースサイト「Yahoo!ニュース」のコメント欄の秩序を効果的に保つべく、AIによる誹謗中傷コメントの管理システムを導入しています。
根拠のない誹謗中傷は他者を傷つけるだけでなく、他のユーザーのサービス利用を遠のかせる原因にもなるため、早急な削除やコメントの停止などが求められます。同社では、これらのコメントを、ディープラーニングを使った高度な言語処理技術を用い、サイト中をAIで監視しています。
それにより、迅速な削除を実現するだけでなく、投稿前のコメントにも目を通し、誹謗中傷と見られるコメントは投稿できないようにするなど、未然にコメントを予防する機能も備えています。同社のコメント検知AIは現在、ニュースと関係のないコメントや誹謗中傷のコメントを1日あたり2万件の削除を実現しており、最近では外部への検知AIの実装サービスの提供も始まっています。
株式会社南部美人
日本酒を製造している株式会社南部美人では、日本酒作りにディープラーニングを採用しているとして、話題になっています。
日本酒作りはその時々によって微妙な味の違いが出てくるため、同社ではそのすべての工程をAIに任せることは難しいと考えています。ただ、米の膨張率や割れ方をAIで判断することは可能だとも考えており、このようなプロセスにおける自動化を目指し、現場の人間の業務負担軽減を促そうと実験を重ねています。
技術が実用化すれば、日本酒作りはもちろん、米を使った発酵食品作りにも応用が効くと予想しており、食品業界にとって大きな影響を与えることになりそうです。
ディープラーニングを導入している主なサービス
企業独自の導入事例だけでなく、一般的に利用できるサービスにもディープラーニングが用いられています。
Amazon Echo
Amazon Echoは、Amazonが提供するスマートスピーカーですが、音声認識AI「Alexa」を利用できるのが最大の特徴です。
まだシンプルな対話にしか対応していないものの、屋内のスマート家電と連携することで、「Alexa、電気を消して」などの命令を伝えることで、家中の家電をコントロールできる点が話題となっています。
DeepL
DeepLは、ディープラーニングを採用した自然言語翻訳ソフトです。従来の機械翻訳と比べ、はるかに自然な翻訳文を生成してくれるだけでなく、無料で利用ができる点が高く評価されています。
機械翻訳が難しいとされる日本語にも対応しているため、日本にも多くのユーザーを抱えていることが特徴です。
リアル型バーチャルヒューマン
リアル型バーチャルヒューマンは、広告事業を展開する株式会社セカイエと香港のディープラーニングスタートアップであるPantheon Lab Limitedが共同で展開する人工知能サービスです。AIによって生成されたCGの「バーチャルヒューマン」をインフルエンサーとして起用し、SNSなどの広告塔として活躍させることで、ブランド認知を拡大できます。
生成されるバーチャルヒューマンのクオリティは極めて高く、本物の人間と見まがうほどで、これもディープラーニングがなければ実現しなかったサービスといえます。
ディープラーニングの発展でAI技術はどう変わる?
ディープラーニング技術の発展は、AI開発へ多大な影響を与えています。
幅広い業界でのAI活用に貢献する
ディープラーニングは、AI活用の可能性を広げたことにより、幅広い業界でAIを起用するきっかけをもたらしています。
ITのイメージが強いAI技術ですが、AIと縁がなさそうな建設や食品はもちろん、繊細な技術を要する医療や金融分野での活躍も期待されており、ディープラーニングのポテンシャルがさまざまな分野で生かされると期待されています。
人間のように高度な意思決定ができるAIが登場する可能性もある
ディープラーニングは、ときとして人間を超える判断能力に到達するケースも見られますが、これは機械が人間の能力を完全に超越する、シンギュラリティの始まりと例えられることもあります。
人間を完全に超越するAIの登場にはまだ時間はかかるものの、人間と同等、あるいはそれ以上に客観的に物事を分析できるポテンシャルを備えていることは確かです。従来は作業労働に特化しているとされてきたAIですが、今後は高度な意思決定の現場でも、AIが存在感を発揮することになるでしょう。
まとめ
ディープラーニングの進歩はAI研究において、重要な役割を果たしてきました。すでに国内でもディープラーニングを活用した技術の導入事例は登場しており、今後はより多くの企業で採用が進むとも期待されています。
ただ、ディープラーニングを有効活用するためには相応のマシンスペックが求められるため、AI開発のためにはまずマシン環境を整える必要があります。
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