
一昔前までは、手の届かないハイテクとされてきた人工知能(AI)や機械学習も、今や一般的なパソコンで実施が可能なレベルにまで技術力は向上しています。とはいえ、優れたAIを開発したり、精度の高い機械学習を実行したりするためには、適切なパソコンを選ぶことも大切です。
今回は、身近なパソコンを使って機械学習を実施したいと考えている方に向けて、最適なパソコンの選び方や、どんな性能に注目すれば良いのか解説します。
機械学習の仕組み
そもそも機械学習とは、コンピュータープログラムが自らデータを学習し、主体的な判断能力を身につけるためのプロセスです。人間が経験から学ぶのと同様、人工知能もまた機械学習を通じて最適解の発見へ近づこうとします。
機械学習は、主に「教師あり学習」と「教師なし学習」という2つの方法から成立しています。
教師あり学習は、インプットするデータに正解データが付与されており、それを読み込むことでコンピューターの認識能力を効率良く高められる手法です。画像認識のようにシンプルな正誤判定を行ったり、株価や天気の予測をしたり、ある程度過去のデータに基づいて規則性のある予想を立てることで効果を発揮する分野で役に立つ手法です。
一方の「教師なし学習」は、インプットするデータに正解データが付与されておらず、コンピューターが自ら正しい値を導かなければならない方法です。この際、AIが参考にするのが、データに存在している「特徴量」です。それぞれのデータにある特徴を独自のアルゴリズムで発見し、上手くいけば人間には判別ができないような情報処理も、難なく行えるようになります。
近年、ディープラーニングの台頭により、教師なし学習を効率良く運用できる仕組みも整備されてきています。
機械学習に適しているパソコンとは?
続いて、機械学習に最適なパソコンの条件について解説していきましょう。
パソコンであればどれでも機械学習は実践可能
結論からお伝えすると、機械学習ができるかできないかでいえば、あらゆるパソコンで機械学習を実行することは可能です。AI開発のための機械学習とはいえ、基本的なプロセスは従来の統計学に則った計算処理の連続であるため、手元のパソコンで今日から機械学習を実践可能です。
後ほど詳しいパーツについて紹介しますが、パソコンにはAIの開発に必要な機能がすべて搭載されているため、「このパソコンでなければ機械学習はできない」という条件はありません。
目的に応じて適切なスペックの選択が必要になる
どんなパソコンでも機械学習は実行可能である一方で、優れたAIを開発したければ、ある程度条件は絞られてきます。
基本的に、高度なAIを開発しようとすればするほど、複雑で膨大な機械学習処理が必要になります。短い期間でAIを開発したいのであれば、なおさら優れたパソコンが求められるため、要件に応じたスペックの用意が必要になるでしょう。
基本的には高価なパソコンであればあるほど、高度なAI開発にも適していると考えてもらって構いません。企業がビジネスとして展開しているようなAIサービスを運用するのであれば、パソコン一台ではなくサーバーを導入するなどして、サービスを支える必要が出てくるでしょう。
機械学習でGPUを重視すべき理由
機械学習を効率良く、そして複雑なAIを開発するためには、GPUのスペックに注目することが重要です。ここでは、GPUの性能が機械学習の出来に影響するのか、その理由を解説します。
高い並列処理能力を備えているため
一つ目の理由は、GPUは高い並列処理能力を備えているためです。
そもそも、GPUとはパソコンにおけるグラフィック処理を担うためのユニットで、膨大な演算にも対応できる仕組みを備えています。通常のCPUは、計算処理日を一つずつ実行する直列的なシステムを採用していますが、GPUは並列処理能力を備えています。
これは、同じ計算処理を一度にまとめて実行できるという仕組みで、素早くたくさんの計算を行うのに欠かせない機能です。
GPUが担当するグラフィック処理には、膨大な量の同じような計算処理が発生するため並列処理が採用されていますが、この点は機械学習も同様です。機械学習もハードに対して同様の計算処理を大量に求めるため、GPUの並列処理能力が役に立ちます。
ディープラーニングのような高度な機械学習で活躍するため
二つ目の理由は、GPUの汎用性の高さです。
教師あり学習での活躍はもちろん、GPUはディープラーニングのような次世代のAI開発にも役立ってくれるため、ポテンシャルにも優れていることが特徴です。
ディープラーニング研究の最先端においても、積極的に採用されているのがCPUではなくGPUです。GPUのスペックに優れたパソコンを用意しておくことで、今後高度な開発を行いたくなっても、スペック拡張のための負担を抑えられるようになるでしょう。
機械学習に必要なパソコンのスペック
機械学習の効果を最大限高める上では、どのような性能に注目するべきなのでしょうか?ここでは、機械学習で重視すべき主なパソコンのスペックについて解説します。
GPU
前述の通り、GPUはグラフィック関連の処理を一括で担う重要なユニットです。正式名称はGraphic Processing Unitで、グラフィックの処理を担うパーツであることがわかります。
近年はGPUをAI開発など他の分野で応用するフレームワークも普及し、機械学習で活用する機会も増えてきました。GPUのスペックが高ければ高いほど機械学習の計算スピードは高速化するため、高度なAIを開発したい場合や予算内で少しでも機械学習特化のパソコンを手に入れたい場合は、GPUの性能を見極めましょう。
CPU
CPUはCentral Processing Unitの略称で、パソコンの処理全般を担っているユニットです。かつてのコンピューターはCPU一台ですべての計算処理を賄ってきましたが、グラフィック技術の高度化により、スペックの慢性的な不足が発生し、GPUとの併用で計算を行うことが一般的となりました。
GPUを使って機械学習を実施する場合、CPUの性能はそこまで学習を左右することはありません。とはいえ、パソコンにおける処理の多くをCPUが担当しているため、ある程度余裕を持っていることで、全体のパフォーマンスを最適化することができます。
メモリ
メモリは計算処理を行うデータを一時的に保管しておく場所で、膨大な計算を行う機械学習においても活躍が期待できます。
計算スピードはGPUの性能に左右されることはもちろん、メモリ容量の大きさにも大きく影響を受けます。せっかくGPU性能に優れていても、メモリ容量が小さければ、GPUは本来のパフォーマンスを発揮することができません。
そのため、機械学習向けPCを探す場合にはメモリの大きさにも注目し、余裕を持ったスペックを確保しておきましょう。
ストレージ
ストレージは、その名のとおりコンピューター上にデータを保管しておくための場所です。あらゆる情報はストレージに保管されるため、容量が大きければ大きいほど、多くの情報を扱えます。
ただ、ストレージは直接機械学習のパフォーマンスに影響を及ぼすわけではないため、そこまで気にかける必要はありません。もちろん、ストレージが大きければ、データセットを直接大量に保管しておくことができますが、外付けのストレージでも賄うことができるため、優先順位は低いといえます。
機械学習向けパソコン選びのポイント
機械学習向けのパソコンを選ぶ上では、上記のようなスペックに注目しながら、次の4つのポイントを押さえて適切な選択をする必要があります。
GPUのスペックを重視して探す
一つ目のポイントは、GPUのスペックを重視することです。上述の通り、機械学習においてはGPUの性能がパフォーマンスの良し悪しへ大きく影響するため、AI特化のパソコン選びであればまずGPUのスペックを優先しましょう。
GPUの性能に優れるパソコンは値が張るものの、確かな処理能力を備えているため、機械学習以外の場面でもパワーを発揮します。3Dグラフィック処理や映像編集など、繊細な映像描写が求められる業務に最適であるため、これらと併用して導入する場合には効果的です。
また、GPUの性能はこの後に紹介するクラウドサービスを活用することで、そのリソースを補うことが可能です。
コストパフォーマンスを重視するなら型落ちモデルを選ぶ
良いGPUを積んだパソコンを導入したいけれど、予算が足りないという場合は型落ちモデルを選ぶと比較的安価に性能に優れるパソコンを購入できます。
GPUをはじめとするPCパーツは、毎年最新のモデルが登場するため、頻繁に既存のモデルは型落ちとなります。ある程度年を重ねているモデルでも、新品であれば十分なパフォーマンスを発揮するため、優先的に選ぶことをおすすめします。
クラウドサービスで足りないスペックを補う
予算内のパソコンではどうしても要求スペックを満たせないという場合、クラウドサービスの併用がおすすめです。クラウドサービスは、オンラインを介してさまざまなサービスを提供してくれるもので、GPUリソースの確保や仮想ストレージ空間の提供など、多くの恩恵を受けることができます。
ハードウェアを購入する必要がなく、ライセンスの購入のみですぐに利用を開始できるため、初期費用を抑えたい方におすすめの方法です。
機械学習に適した市販のパソコン例
それでは、実際に市販されている機械学習向けのパソコンについて紹介します。ポイントとしては、GPU性能に優れたモデルが複数あることや、ある程度自分でカスタマイズができるというところです。
SENSE-M056-iX4-RBX
画像引用元:パソコン工房
パソコン工房から販売されているMousePro-T330Xは、第10世代インテル Core i5とGeForce RTX 3060を搭載した高性能モデルです。NVIDIAの高品質GPUを搭載しているだけでなく、メモリも16GBであるため、ある程度高度な機械学習でも難なく実行可能です。
MousePro-T330X
画像引用元:マウスコンピューター
MousePro-T330Xは、高度なグラフィック処理に最適化されたBTOパソコンで、優れたGPUを搭載している分機械学習でも高い効果が期待できます。GPU以外のパーツについてはカスタマイズが可能であるため、物足りない部分を購入の際に強化することもできます。
プロ向けで活用可能なパワフルなモデルを求めている方におすすめです。
GALLERIA XA7R-R36T
画像引用元:ドスパラ
GALLERIAシリーズは、PC販売を手がけるドスパラのオリジナルゲーミングPCです。ゲームプレイに特化しているゲーミングPCも、GPUのスペックに余裕を持ったモデルが大半を占めるため、機械学習において活躍できます。
ドスパラでは独自のパフォーマンス基準としてベンチマークスコアを製品ごとに提示しており、どれくらいのパワーがあるのかを一目で比較が可能です。
クラウドGPUの導入が機械学習に最適な理由
GPU性能に優れるパソコンの導入は、機械学習の実行を円滑にする上で大いに役立ちます。しかし、その一方で予算の都合などから十分な性能を持ったパソコンを購入できないケースも考えられます。
そこで活躍するのが、クラウドGPUによるリソースの確保です。機械学習にクラウドGPUがどのように役立つのか解説していきます。
豊富なリソースを活用できるから
クラウドGPUの一つ目のポイントは、豊富なリソースを活用できる点です。
パソコンに搭載されているGPUは、たとえどれだけ優れた性能を持っていても、高度な機械学習を実施するとなるとリソース不足に陥るケースがほとんどです。一方で、クラウドGPUの場合、利用できるリソースは膨大であるため、GPU性能が不足することはありません。
当社モルゲンロットが提供する「M:CPP」では、最新のAMD製GPUを採用しており、高度な演算処理をクラウド経由で実行ができるようになります。
スケーラブルで柔軟性に優れるから
クラウドGPUのメリットは、導入スケールを自由に調節できるという点にもあります。
オンプレミス型のGPUの場合、必要に応じてGPUを追加で購入しなければならないため、使えば使うほどに導入費用がかさんでいきます。一時的にリソースが足りないという場合でも、多くの費用を投じて購入しなければならないため、費用対効果が見合わない可能性も出てくるでしょう。
クラウドGPUの場合、必要なときにはすぐリソースを増加させ、不要になったらリソースを減らせる仕組みを採用しているため、スケーラブルで柔軟性が高いという特徴があります。ピーク時にのみリソースを契約できるため、費用対効果の高いGPU環境を構築可能です
当社の「M:CPP」では専有サーバーをクライアントに提供しているため、他の利用者の干渉を受けることなく、好きなだけサーバーを利用できる仕組みが整備されています。
リモート環境でも活躍するから
クラウドGPUはオンライン経由で提供されるため、リモート環境でも活躍が期待できます。従来ではサーバーが設置されているオフィスにまで足を運ぶ必要がありましたが、クラウドGPUなら自宅からでも機械学習を高度に進めることができます。
コストパフォーマンスに優れるから
クラウドGPUの場合、オンプレミスに比べて高いコストパフォーマンスが期待できます。初期費用を抑え、ライセンス料金のみで利用可能なので、短期的な運用を検討している方にもおすすめです。
当社の「M:CPP」は、クライアントのコストパフォーマンスを最大化するためのさまざまなサービスを提供しています。大手クラウドGPUに比べて最大半分程度にまでコストを削減することも可能であるため、すでにクラウドを利用しているという方にも、一度は利用して頂きたいサービスです。
まとめ
今回は、機械学習に最適なパソコン選びについて、押さえておきたいポイントを解説しました。機械学習向けパソコン選びにおいてはGPUの性能が非常に重要で、ユーザーのパフォーマンスを大きく左右します。
必要スペックを予算の都合で満たせないという方にも、クラウドGPUで足りない分を補完してもらうことができます。コスト面や使い勝手の面で問題を抱えている場合は、当社モルゲンロットの「M:CPP」のクラウドGPUを検討してみてください。