
ディープラーニングでは大規模な計算処理を行うため、処理能力が高い「GPU」を利用するのが一般的です。とはいえ、コストを削減するために、CPUだけでディープラーニングを行いたい企業の皆さまも多いのではないでしょうか?
実は、自分のPC環境が低スペックでも、ディープラーニングを行える方法があります。今回は、GPUなしでディープラーニングをする方法や、クラウドGPUを使うメリットを解説します。
ディープラーニングに最低限必要なPCのスペックとは?
ディープラーニングを動かすために、CPUが18万個以上搭載されたスーパーコンピュータが使用されることもあります。スパコンが必要になるケースは稀ですが、一般的なディープラーニングモデルを動かす場合にも、ある程度高性能なPCが必要です。
具体的には、次のような高性能PCがディープラーニングにふさわしいPCといえます。
PCのパーツ | 必要なPCスペック例 |
---|---|
CPU | ・Core i7 10700~ ・Core i9 9900~ ・Xeonシリーズ |
GPU | ・CUDAコア数:6,000~10,000以上
・Tensorコア数:300〜500以上 |
CPU・GPUのメモリ容量 | 16〜24GB以上 |
SSD・HDD | 1TB以上 |
ディープラーニング向けのPCを用意する際には、上記のスペックを基準にすると良いでしょう。なお、ディープラーニングに必要なPCスペックの詳しい情報は、『ディープラーニングに求められるスペックは?パソコンに必要な要件』を参考にしてみてください。
ディープラーニングをGPUなしで行うべきでない理由
最低限のディープラーニング環境をそろえる場合にも、GPUは欠かせないPCパーツです。とはいえ、PCにあまり詳しくない方の中には、GPUの必要性が今一つわからない方も多いでしょう。
ここでは、CPUのみでディープラーニングをするデメリットを踏まえて、GPUなしで行うべきでない理由を解説していきます。
正しくモデルを再現できないから
GPUを使わずにCPUのみでディープラーニングを行う場合には、CPUで動かせるようにモデルを小さくしたり、データを少なくしたりする必要があります。そのため、CPUのみでディープラーニングをする場合には、正しくモデルを再現することができず、本来の精度よりも低くなってしまいます。
したがって、論文どおりに再現するうえでも、ディープラーニングをGPUなしで行うべきではありません。
CPUに負荷がかかるから
ディープラーニングモデルを動かす際には、単純な行列演算を大量かつ高速に行う必要があります。
GPUは単純な計算処理に特化したコアが1,000以上搭載されているため、計算処理に必要な負荷を分散できます。一方で、CPUの場合には多くても2桁程度であるため、1つのコアに対する負荷が集中してしまいます。
そのため、ディープラーニング実行時のCPUへの負荷を抑えるためにも、GPUなしで行うべきではありません。
時間がかかりすぎるから
GPUに対してCPUはコア数が少なく、一度にできる計算処理量が多くありません。そのため、GPUでは「10分程度」で終わる処理でも、CPUの場合には「1週間以上」かかってしまうケースもあります。
AI事業はスピード力も大事であるため、時間効率を上げるためにも、ディープラーニングをGPUなしで行うのはおすすめできません。
PC上で他の作業ができなくなるから
通常CPUは、マウス等の制御やさまざまなソフトへの命令を行っています。GPUなしでディープラーニングを行う場合には、モデルを動かすのに必要な計算処理をすべてCPUが行うことになります。
そのため、CPUが他の処理に割り当てるキャパがなくなってしまい、PC上でディープラーニング以外の作業ができなくなってしまいます。ディープラーニングのためだけに他の作業を都度ストップしていては効率が悪いため、GPUなしでは行うべきでありません。
そもそもGPUなしでは実行できないモデルも多い
ディープラーニングは基本的に、GPUなしでは実行できないモデルも多く存在します。たとえば、NVIDIA製GPUの「TITAN(タイタン)」での実行が推奨されているモデルや、「メインメモリが8GB以上のGPU」でしか動作できないモデルなど、ディープラーニングモデルによってはGPUが指定されているケースがあります。
そのため、環境面で諦めることがないように、ディープラーニングにはGPUが必要です。
GPUなしのPCでディープラーニングをする方法
GPUを使わずにディープラーニングをするのは推奨されていないとはいえ、費用やスペースなどの問題からどうしてもGPUが用意できない場合もあるでしょう。ここでは、GPUなしのPCでディープラーニングをする方法を3つ紹介します。
転移学習をする
1つ目の方法は、「転移学習をする」方法です。
転移学習とは、大量のデータで学習させた大きなディープラーニングモデルを小さなモデルへの「データ作成機」として利用する技術のことです。小さなモデルには、CPUだけでも動く「サポートベクターマシンやクラスタリング」などの機械学習手法が使われます。
転移学習では、ディープラーニングにより特徴が抽出されたデータを使って学習するため、データをそのまま使う場合よりも高い精度が期待できます。
ただし、他の2つの方法とは異なり、ディープラーニング自体を実装できる方法ではないことに注意してください。転移学習は、既存のディープラーニングモデルの高い性能をCPUで動く小さなモデルに活かしたい場合に役立つ方法です。
AIプラットフォームを使う
2つ目の方法は、「AIプラットフォームを使う」方法です。
AIプラットフォームとは、ディープラーニングを実行するためのシステムやツールが提供されているクラウドサービスのことです。AIプラットフォーム内の提供システムには、開発エディタや可視化ツールの他に、GPUも含まれます。
AIプラットフォームを通じてクラウド上のGPUを利用できるため、GPUなしのPCでもディープラーニングが可能です。
クラウドGPUを利用する
3つ目の方法は、「クラウドGPUを利用する」方法です。
クラウドGPUとは、ネットを介してベンダーが提供するGPUを利用するサービスのことです。自分のPC環境にCPUしかない場合にも、クラウド上のGPUでディープラーニングができます。
クラウドGPUについては、『GPUサーバとは?メリットや問題点、クラウドGPUサーバのメリット』で詳しく解説しています。
ディープラーニングにクラウドGPUを使うメリット
GPUなしのPCでディープラサーバーグを行える方法の中で、もっともおすすめなのが「クラウドGPU」を使う方法です。おすすめである理由は、クラウドGPUはディープラーニング環境で一番重視すべきGPUに特化したサービスで、快適な実行環境を整えられるからです。
それでは、ディープラーニングにクラウドGPUを使う3つのメリットについて、実行環境面から解説していきます。
導入の手間がない
クラウドGPUは、クラウド上のサーバーを利用する仕組みであるため、GPUを使うためのOS環境の構築やディープラーニング環境用の設定など、難しい環境構築が不要です。
そのため、GPUサーバーの導入のためだけにある程度の時間がかかりますが、クラウドGPUであれば導入の手間なく、すぐにディープラーニングを始められるメリットがあります。
運用コストを抑えられる
オンプレミス型GPUでは、サーバーのセキュリティ維持費や電気代などの運用コストをトータルすると、100万円以上かかることもあります。
一方で、クラウドGPUは基本的に従量課金制であり、またサーバーのセキュリティを自社で管理する必要もないため、運用コストを大幅に抑えられるメリットがあります。
マシンのセキュリティ保守をベンダーに任せられる
クラウドGPUを利用する場合には、GPUはベンダーが管理することになります。そのため、マシンのセキュリティ保守をベンダーに任せることができます。
特にサーバーの管理方法をよく知らない方にとっては、費用さえ負担すれば安全なサーバーを利用できるのは大きなメリットとなるでしょう。
なお、その他のクラウドGPUのメリットについては、『クラウドサービスのGPUを利用するメリットとは?』を参考にしてみてください。
ディープラーニング向けクラウドGPUのチェックポイント
近年のAIブームにより、世界中の企業からさまざまなクラウドGPUが提供されています。そのため、複数のクラウドGPUを比べる必要がありますが、GPUについて知見がない場合に比較するのは簡単ではありません。
ここでは、ディープラーニング向けクラウドGPUのチェックポイントを3つ紹介します。初めてクラウドGPUを選ぶ方向けに、最低限押さえておくべきポイントを解説するので、事前にチェックしてみてください。
Tensorコア数
1つ目のチェックポイントは、「Tensorコア数」です。Tensorコアとは、GPUに搭載されているディープラーニングに必要な多次元配列の計算処理に特化したコアのことです。
Tensorコアが多いほど、ディープラーニングの処理を早くすることができます。そのため、ディープラーニング向けのクラウドGPUを選ぶ際には、使えるGPUにTensorコアが搭載されているかを確認すると良いでしょう。
コストパフォーマンス
2つ目のチェックポイントは、「コストパフォーマンス」です。同じようなスペックのGPUを比べる際には、「月額・日額・時間」のうち、どのタイプで費用が請求されるかを重視すると良いでしょう。
使う頻度が少ない場合には、「使用した時間分」で料金が決まるものがもっともコストパフォーマンスに優れ、一方で本格的にディープラーニングを行う場合には、「月額タイプ」がお得になります。
クラウドGPUの「使用分しかコストがかからない」メリットを無駄にしないように、しっかりとコスパ面もチェックしましょう。
カスタマイズ性
3つ目のチェックポイントは、「カスタマイズ性」です。
一般的に、クラウドGPUを契約する際には、次の2つのシステム環境から選ぶことができます。
- OSがクリーンインストールされただけの状態(ベアメタル)
- ディープラーニングに必要なフレームワークや実行環境などがプリインストールされている状態
ディープラーニングの種類によって必要なフレームワークや適切なOSが異なるため、さまざまな状況に合わせて柔軟にカスタマイズできるかどうかも重要なポイントです。
クラウドGPUは「M:CPP」がおすすめ
さまざまなディープラーニング向けのクラウドGPUが提供される中で、当社モルゲンロットが提供する「M:CPP」がもっともおすすめです。M:CPPには、ディープラーニング環境に必要なシステムや機能が過不足なく搭載されています。
それでは、M:CPPの特徴やおすすめである理由について詳しく解説していきます。
M:CPPの特徴
M:CPPは、大手半導体メーカーのAMD社の「ハイエンドモデルのGPU」を好きなタイミングで利用できるクラウドGPUサービスです。M:CPPの特徴は次のとおりです。
- 「ベアメタル」と「プリインストール」のどちらも選べる
- AnacondaもしくはDocker環境での環境構築をサポートしてもらえる
- CPUの変更やHDDの増設など、GPU以外のスペック調整も可能
- ローモデル・ミドルモデル・ハイエンドモデルの3つのプランから選べる
M:CPPは、利用者の環境ごとに細かくオーダーメイドが可能で、カスタマイズ性に優れています。なお、M:CPPについてさらに詳しく知りたい方は、『GPUクラウドサービスなら「M:CPP」!概要とおすすめの理由』をチェックしてみてください。
おすすめの理由
M:CPPがおすすめできる一番の理由は、「大手クラウドサービスと比較して2分の1以下の費用負担」で導入できるからです。比較的安価なAMD社のGPUを扱うことで、低コストでのサービス提供を実現できています。
どれくらいお得になるか気になる方は、『AWSとM:CPPのコストパフォーマンスを比較する』をご覧ください。
ディープラーニング向けクラウドGPUを導入するときの注意点
最後に、ディープラーニング向けクラウドGPUを導入する時の注意点を2つ紹介します。
クラウドGPUの特徴をよく理解しないままに導入してしまうと、契約してから後悔する可能性もあります。そのため、初めてクラウドGPUを導入する方は特に、それぞれチェックしてみてください。
データの準備が必要となる
クラウドGPUでは、ディープラーニングに必要なシステム環境はひと通りそろっていますが、データセットまでは用意されていません。したがって、ディープラーニングに使いたいデータは収集したり加工したり、自分で準備しなければならない点に注意が必要です。
プログラミングの知識が必要となる
クラウドGPUでは、GPU環境やフレームワークが提供されていますが、それらを使うためにはプログラミングにより設定しなければなりません。
そのため、クラウドGPU上でディープラーニングを動かすためには、AIプログラミングの知識が必要となることに注意してください。
まとめ
大規模な演算を行うディープラーニングは、GPUなしのPCでは実行できません。ただし、ハイスペックなGPUをオンライン上で使える「クラウドGPU」を利用すれば、自分のPCが低スペックであってもディープラーニングを動かすことができます。
さまざまなディープラーニング向けのクラウドGPUがある中でもっともおすすめなのが、当社モルゲンロットが提供するクラウドGPUサービス「M:CPP」です。M:CPPでは、プロのエンジニアがお客さまの環境・予算をトータル的に考慮するため、自社に合った最適なGPUを利用できます。
そのため、低スペックPCしか用意できず、AI事業を先延ばしにしていた企業の皆さまも、まずは当社のM:CPPを利用し、ディープラーニングを試してみてはいかがでしょうか?