
GPUは本来、コンピュータのグラフィック処理に特化したユニットとして活躍していました。しかし、近年はAI開発や仮想通貨のマイニングなど、幅広い用途に活躍していることが特徴です。また、このようなタスクには膨大なGPUリソースを必要とするため、巨大なGPUサーバーを導入して運用するケースも見られます。
ただ、GPUサーバーの導入は豊富なリソースを提供してくれる反面、導入のコストや維持管理の負担が発生するなど、あらかじめ検討しておくべき懸念事項も存在します。
今回は、そんなGPUサーバーの導入の前に知っておきたい、運用のメリットとデメリットについて解説しながら、実際のサーバー製品を参考にGPUサーバーの選び方のポイントを紹介します。
GPUサーバーとは
GPUサーバーは、巨大なGPUを積んでいるハードウェアの事を指しています。主に一企業や研究機関が導入するハードで、組織内でリソースを共有することで、円滑な業務遂行を促します。
一般的に知られているGPUは、PCの中に収まるような小型のモデルですが、GPUサーバーはそれらに比べるとはるかに巨大です。その大きさゆえに活用用途も幅広く、一台のPCではとても対処できないような演算処理も、GPUサーバーの導入によって解消することができます。
GPUサーバーの活躍分野
では、具体的にGPUサーバーの導入によって、どのようなことが実現するのでしょうか?具体的な活用方法について、ここで4つほど紹介します。
AI・ディープラーニングの開発
近年注目を集めているGPUサーバーの運用方法が、人工知能分野です。これまで、AIの開発にはCPUを使った演算処理が広く普及していましたが、GPUの性能の向上や、フレームワークの開発によって、GPUの採用が進められています。
特に優れたAIシステムを構築するために欠かせないディープラーニングの実施には、パワフルな環境を整備する必要があります。そのようなケースにおいて、GPUサーバーは活躍します。
膨大なリソースを生かし、優れた演算処理能力を発揮して、迅速で精度に優れるAI開発を実現します。
データマイニング
上記の人工知能分野とも密接に関わっているのが、データマイニングです。データマイニングとは、膨大な情報量を持ったデータセットから、課題解決のために有用と考えられるデータを抽出する作業です。
大量のデータをコンピュータの分析にかけることで、人間では到底発見できなかったようなパターンや、思いもしなかった新しい発見を見つけることができます。人工知能の運用においても、このような人間の先入観やあまりに微細な違いゆえに気がつかなかった特徴の発見が目的とされており、データの特徴をうまく掘り出す作業は機械学習においても重要です。
データマイニングは、ビッグデータと呼ばれる巨大なデータセットからごく少数の有用なデータを掘り起こす作業です。GPUサーバーを使ったパワフルなデータマイニング環境が整備できれば、あらゆるデータをマイニングにかけることができます。
いつもは捨てられてしまうレシートや切符の購入情報、毎日の来店者情報など、あらゆる情報が価値を持つようになり、世界の情報化を後押しする技術となっています。
VRなどの高度な映像処理
GPUサーバーは、VRやARなどの次世代の映像技術を処理する上でも活躍しています。そもそも、GPUはGraphic Processing Unitの略称で、コンピュータにおけるグラフィック処理を担当してきたユニットです。
映像処理においては膨大な計算タスクが発生しますが、GPUは一度に複数の同一タスクを計算できる能力を備えているため、滑らかな映像を瞬く間に表現することができます。
GPUサーバーもまた、このような高度なグラフィック処理をさらに高いレベルで実現できます。どれだけ巨大な映像であっても、GPUサーバーのような強力なマシンがあれば、ディテールまでこだわった映像表現を実現できます。
ARやVRは3Dでユーザーに圧倒的な没入感を与えてくれますが、そのためには高い処理能力がクリエイターには求められます。GPUサーバーがあれば、問題なく業務を遂行できるはずです。
仮想通貨(暗号資産)のマイニング
GPUサーバーのパワフルな演算処理能力は、仮想通貨(暗号資産)のマイニングにも活躍しています。
仮想通貨(暗号資産)はその名の通り、特定の物体に価値が依存することなく、現実世界に存在するわけでもない通貨のことです。その価値は世界各国で行われているマイニングによって支えられており、データを掘れば掘り起こすほど、価値が膨らんでいくという仕組みを持っています。
10年以上前であれば、仮想通貨(暗号資産)のマイニングは家庭用のPCでも十分に実行することができたものですが、今ではその事情も大きく変わっています。現在の仮想通貨(暗号資産)の価値を支えているのは、世界各国に設置された巨大なサーバセンターです。膨大な数のGPUサーバーを稼働させ、日夜仮想通貨マイニングが実行されています。
GPUサーバーが注目される理由
このように、GPUサーバーの役割は一昔前では考えられないほど、幅広い物となっています。ここまでGPUサーバーの利用価値が高まり、普及が進んだのにはどのような理由があるのでしょうか?
急速な技術革新
一つ目の理由は、急速な技術革新です。GPUはパソコンが登場した当初から存在したと思われることもありますが、実は初期の PCにはGPUは搭載されていません。パソコンのあらゆる処理はCPUが司っており、それだけで事は足りていました。
しかし、IT革命の浸透とともに、コンピュータの性能はさらなる飛躍を遂げていくこととなります。CPUのサイズはどんどん小さくなり、性能は向上し、強力なグラフィック表現ができるようになると、GPUがその処理を任せられるようになります。
以降もプロセッサの小型化や価格の低下、そして性能の向上は止まらず、スマホの普及や高性能なGPUサーバーの登場を促しました。
それに伴いデジタル技術の活用の幅も広がり、3DCGの作成や、4K映像の撮影と編集、そして人工知能の開発や仮想通貨(暗号資産)の登場など、多くのハイテクがこれらの進化によって誕生しています。
今後もコンピュータの小型化と高性能化はどんどん進んでいき、その性能向上のスピードはますます加速していくとも言われています。
そんな技術の進化スピードを加速させていく上でも、GPUサーバーのようなパワフルなリソースは欠かせないといえるでしょう。
DXの普及
最先端におけるハイテクの進歩と同時に、一般社会でもハイテク活用を推進する動きが加速しています。いわゆるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進は、IT化が比較的遅れているとされる日本企業の間でも、喫緊の課題として取り上げられるようになってきました。
DXは、端的にいえばICTを活用して企業活動を効率化していこうという取り組みです。DXを推進する上で、最新のハードウェア環境を整備し、アナログ業務をデジタルにシフトしていく作業は欠かせません。こういったDXの実行とともに、既存のIT環境をよりパワフルなものへ置き換えようという動きも進んでいます。
GPUサーバーが一台あれば、GPUを必要とする負担の大きい業務を一気に高速化することが可能にもなります。DXの推進は今後10年続くとも考えられますが、その間にさらに多くの企業がGPUの活用を進めていくことになるでしょう。
GPUサーバー導入のメリット
GPUサーバーを導入するメリットとしては、次の2つが挙げられます。
豊富なリソースを確保できる
GPUサーバー導入の最大のメリットが、豊富なリソースを活用できるようになることです。これまではGPUの使用率を様子見しながら利用しなければならなかったのが、GPUサーバーを導入することによってまったく気にする必要がなくなります。
もちろん、GPUサーバーのパフォーマンスは有限であるため、利用スケールが大きくなればなるほど、リソースの圧迫も進みます。しかし、これまでPCのGPUに依存して作業を行なっていた場合、GPUサーバーのパフォーマンスの高さは非常に逞しく、業務スピードも格段に向上し、PCが重くなる、フリーズするなどのストレスを感じてしまうこともなくなるでしょう。
高度な技術開発を促進できる
GPUサーバーの導入は、これまで実現できなかったプロジェクトの可能性もひらけます。たとえば、機械学習で初歩的な認識プログラムを構築するにとどまっていたAI開発が、GPUサーバーの導入によって、ディープラーニングを使った高度な強化学習を実践することもできます。
新規ビジネスを検討している場合や、さらなる研究を推進したい場合、GPUサーバーは重要な役割を果たしてくれるでしょう。
GPUサーバー活用の問題点
このように、GPUサーバーの活用可能性は非常に多様で、魅力的なメリットが揃っています。しかし一方で、GPUサーバーの運用に当たっては注意すべき問題点もあります。
導入費用が高額
一つ目の懸念事項が、導入費用です。GPUサーバーは自社購入となると非常に高額で、数百万円〜数千万円の導入コストが発生することはごく一般的です。
間違ってもPCを買い換えるような感覚で購入することは叶わないため、あらかじめ予算については十分に確保しておく手立てを考えなければなりません。
導入に時間を必要とする
GPUサーバーは、購入してすぐ運用というわけにもいかないのがデメリットです。注文してから現場に届くまでに日数を要するだけでなく、セットアップも必要なため、迅速な運用の必要性がある場合には別の手段が必要です。
特に繁忙期に差し掛かったとき、GPUリソースを急いで確保しないといけないときなどは、スケジュール調整が重要になります。そんな中でGPUサーバーの到着を待っている暇はないため、事前に備えておくことが大切です。
運用可能な場所が限られる
また、GPUサーバーは自社に設置するとオフィスでしか利用することができないため、業務環境がオフィスに限定されてしまうのも問題です。リモートワークの推進など、働き方改革に悪影響をもたらす場合もあり、導入前には導入後のワークフローについても話し合っておきましょう。
GPUラインナップ
そもそも私たちが一般的に利用しているGPUには、どのようなモデルが存在するのでしょうか?GPUの基本的な性能を理解しておくことで、自社でどれくらいのスペックのGPUを運用しており、どんな能力が足りないのか、ということがわかります。
ここでは、主なGPU製品を紹介し、そのスペックを確認しておきましょう。
GeForce RTX 3050
画像引用元:NVIDIA
GeForce RTX 3050は、比較的安価な部類に入る、コストパフォーマンス重視のGPUです。映像編集やゲームなど、グラフィック処理に特化した役割を期待された製品で、一般向けに広く普及しています。
安価とはいえ、性能面では価格相応に十分な能力を発揮することが期待でき、8GBのメモリサイズと最新のNVIDIA Ampere アーキテクチャを搭載し、ユーザーニーズに応えます。
価格帯としては4万円前後のため、個人向けにGPU導入を考えている方にとって、標準的な選択肢となるでしょう。
Radeon RX 7900 XTX
画像引用元:AMD
通常の価格帯のGPUでは満足できず、よりハイスペックなGPUを求めているという方に選ばれているのが、AMD社が提供するRadeon RX 7900 XTXです。ファンが3基も搭載されているビジュアルも特徴的ですが、その本体の迫力に負けない強力なパフォーマンスを発揮することができます。
アーキテクチャはAMDが提供する最新のAMD RDNA™ 3を備え、メモリサイズは24GBと、通常のGPUとは一線を画すスペックを誇ります。高級ゲーミングPCなどに実装することを想定している製品ですが、ディープラーニングなどの他の用途にももちろん運用でき、開発環境を少しグレードアップさせたいときに導入を検討しましょう。
価格は20万円前後と高価な部類に入りますが、GPUは元々決して安価なユニットではないため、妥当な価格といえます。
NVIDIA RTX A6000
画像引用元:NVIDIA
ビジネス向けの本格的なGPU導入を考えているという方は、NVIDIA RTX A6000も一度確認しておくことをおすすめします。NVIDIAが誇るハイエンドGPUの一種で、豊富なリソースを必要とする現場での導入を想定した製品です。
デザイナーやエンジニア、科学者、アーティストなど、GPUを必要とするあらゆる専門職の方に向けて潤沢なリソースを提供し、NVIDIAの最新技術が詰まった製品といえます。価格は100万円を超えるため、個人での導入ケースはほぼなく、企業向けの製品です。
GPUサーバーの選び方
GPUサーバー選びに失敗しないためには、最低でも次の基本的なポイントを踏まえた選び方を実践することが大切です。
自社購入かレンタルかを考える
GPUサーバーは必ずしも自社で購入する必要はなく、専門の事業者からレンタルするという手段もあります。たとえば、GPUサーバーの保管を委託できるデータセンターでは、自社サーバーを保管するだけでなく、データセンターが保有するGPUサーバーをレンタルできるサービスもあります。
レンタルであれば月額や年額料金でサーバーを利用でき、必要がなくなれば契約を解消して減価償却の負担からも解放されるため、柔軟性に長けています。まずは、どうしても自社で購入しなければならない理由があるかどうか確認すると良いでしょう。
必要なスペックを把握する
一口に「GPUサーバー」といっても、性能は製品によってさまざまです。そのため、どれくらいのスペックを自社で必要としているかがわからなければ、正しいサーバー選びは難しくなります。
自社に必要な能力を確認し、詳しい要件を洗い出しておくことで、製品の選定作業を効率化することができます。GPUに明るくない場合、事業者に相談して提案や見積もりを出してもらうことも大切です。
設置コストや維持コストを検討する
GPUサーバーは本体の導入コストはもちろん、それ以外にも設置の際のスペース確保や、本体を稼働させるための電気代、および本体を維持するための冷却費用がかかります。
GPUサーバーは何年にもわたって運用することが前提となるため、たとえ1ヶ月あたりの維持管理コストは問題にならなくとも、今後数年発生し続けるとなると、無視できない負担となります。
GPUサーバーを導入の際には、購入価格だけでなく運用コストも数年分見積もった上で、導入を検討しましょう。
GPUサーバー価格(参考)
ここでは、実際のGPUサーバー製品をピックアップし、どれくらいの価格で販売されているのかを紹介します。
NF5468A5
画像引用元:ViSUAL TEChNOLOGY
NVIDIAのハイエンドGPUであるA100を2基搭載しているというNF5468A5は、40GBものメモリサイズで圧倒的なパワーを発揮します。アカデミックユーザー向けの特化価格での提供とはいえ、価格は最低でも561万円程度と、安いものではありません。
GSV-SMC4U8G
画像引用元:ジーデップ・アドバンス
NVIDIAのA100GPUの80GBモデルを搭載したこちらのGPUサーバーは、上で紹介したモデルよりもはるかに高価です。
最大8枚ものGPUを搭載できるなど拡張性を担保している点は特徴ですが、実際に購入するとなると742万円台からの提供となり、予算に余裕がある企業でなければ導入は難しいでしょう。
SYS-1028GQ-TR
画像引用元:TEKWIND
比較的安価なGPUサーバーを検討している場合、SYS-1028GQ-TRが選択肢に含まれるでしょう。NVIDIAのハイエンドGPUであるTesla K80モデルを4枚搭載可能なこちらのサーバーは、ミニマルなデザインで設置スペースも節約できるため、スマートにGPUを運用したい場合におすすめの製品です。
価格は370万8,000円からと、上記2製品よりも抑えられています。
クラウドGPUサーバーのメリット
このようなGPUサーバーの問題点をまとめて解消してくれるのが、クラウドGPUサーバーです。クラウド経由でGPUリソースを扱えるようになることで、さまざまなメリットを期待できます。
コストパフォーマンスに優れている
クラウドGPUは、なんといってもコストパフォーマンスに優れます。他のクラウドサービス同様、使いたい分だけ契約し、必要がなくなれば契約を解消できるため、初期費用は大幅に抑えられます。
GPUサーバーを維持管理するための費用もかからないので、コスト回収を考えることなく好きなだけGPUを使えます。
迅速な導入が可能
クラウドGPUサーバーは、ライセンスを契約してすぐに運用を開始できることも特徴です。自社に設置するなどの手間がかからないので、リソースだけをネット経由で気軽に利用できるのは嬉しい限りです。
リモート環境でも利用可能
クラウドGPUはオンラインで利用するサービスであるため、リモートワーク下でも活躍するのが特徴です。これまではオフィスに行かなければアクセスできなかったリソースも、自宅から活用できるようになるため、場所にとらわれることなく業務を遂行可能です。
まとめ
GPUサーバーの導入メリットや導入時の問題点、そしてサーバーの選び方のポイントについて解説しました。
大量のリソースを確保できるGPUサーバーは、ビジネスのハイテク化が進む中で重要な役割を果たしますが、一方で導入や運用には多大なコストがかかります。運用規模にもよりますが、サーバーを導入する場合は数百万円の設備投資が発生するだけでなく、維持管理コストも継続的に発生するため、予算面での工夫が必要になるでしょう。
ただ、近年はGPU関連のサービスも充実しており、自社購入にこだわらなければ安価に豊富なリソースを確保することも難しくありません。当社モルゲンロットではコストパフォーマンスと性能に優れたクラウドGPUサービス「M:CPP」を提供し、クライアントの課題解決に努めています。
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